強制労働の禁止
労働基準法第5条は,使用者が,暴行,脅迫,監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって,労働者の意思に反して労働を強制することを禁止しています。
この規定に違反した使用者には,労基法上で最も重い刑罰が課されることとなっています(同法第117条)。この強制の手段には,暴行・脅迫・監禁など法律で明記されているもの以外でも,損害賠償額の予定,前借金契約,強制貯金など経済的手段も含まれています。
なお,このような強要があれば,現実に労働が行われていなくても違反が成立することとなります。
寄宿舎における自由の確保
労働者が使用者の管理する寄宿舎に住む場合,しばしば労働者の自由が不当に制限され,これが強制労働の温床となることが少なくありません。このため,労基法では,事業場附属の寄宿舎における労働者の私生活の自由を確保し,併せて,安全衛生上の措置を使用者に義務づける諸規定を設けています(第94条以下)。
卑劣な経済的足止め策及び具体的な裁判例
従業員の経済的足止め策も,「強制」に含まれる場合があると思われます。
1、賃金の約半分(15万円中の7万円)を勤続奨励手当とし,契約期間の途中で解雇されたり退職した場合 には,労働者に,この手当相当額を会社へ返還することを義務付ける労働契約は,契約期間中の就労を 強制するためのもので,強制労働の禁止又は賠償予定の禁止(労基法第16条)に違反し,無効である (東箱根開発事件・東京高判昭和52年3月31日)。
2、病院による看護師の雇入れに際し2年間の勤続を条件に給付された契約金について,2年内の中途退職の 場合には,当該契約金の返還のほか,その2割相当額を違約金として支払う旨の労働契約は,看護師免 許証を病院側に預けることが約束されていたことと併せ考えると,強制労働の禁止(労基法第5条)に 反する経済的足止め策である(医療法人北錦会事件・大阪簡裁判平成7年3月16日)。
3、外資系企業における,サイニングボーナス(雇用契約の成約を確認し勤労意欲を促すことを目的とする 金員で本件の場合は200万円。なお,本件労働者の年収は1650万円と決められていた)につき,1年以 内に自らの意思で退職した場合にはこれを返還する旨の約定は強制労働禁止(労基法第5条),賠償予 定禁止(同第16条)に違反し無効である(日本ポラロイド(サイニングボーナス等)事件・東京地判平 成15年3月31日)