懲戒とは

資格・等級の切り下げ

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職能資格制度における資格・等級の切り下げの事例

根拠となる就業規則の規定が必要

従業員の職務遂行能力に応じた処遇を行うために、職務遂行能力に応じた資格や等級が体系的に定められ(職務資格制度)、資格や等級に応じて賃金額(基本給)が定められる制度があります(職能給制度)。

このような制度の下での職務遂行能力を見直しにより、資格や等級を引き下げられることがあります。

この見直しは、しばしば職場内での配置転換を伴います。

こうした場合は、まず、根拠となる就業規則の規定(降格、減給についての規定)をチェックする必要があります。

就業規則の規定に基づかずに、使用者の裁量権を理由として、一方的にこのような降格・減給をすることはできないとされているからです(渡島信用金庫(懲戒解雇)事件 函館地裁 平成12.2.15)。

また、根拠となる就業規則の規定がある場合でも、降格、減給の濫用にならないことが求められます。

資格・等級の切り下げなどが無効とされた例

プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク(本訴)事件 神戸地裁 平成16.8.31

退職勧奨を求められた従業員を他部門の単純事務作業へ配転のうえ降職。

配転命令は不利益が大きく全体として無効とされた。

また、使用者は「労働契約上の付随義務として、原告を適切に就労させ、不当な処遇をしてその人格の尊厳を傷つけないよう配慮すべき義務を負っている」ところ、原告を通常の業務に就かせず、退職に追い込むべく不安を煽り、屈辱感を与え、精神的圧力を加え、濫用的な配転命令を行い、これを拒否すると賃金を支払わず、社内ネットワークから排除した等の行為は上記義務に違反すると、された。

通常の職務に就くことができず、能力を発揮し、昇給の機会を得ることができなかった無形の損害を50万円、不安感や屈辱感、精神的圧力等を味わったことによる精神的苦痛に対する慰謝料を100万円とするのが相当であるので,損害額は合計150万円と認められる。

ハネウェル・ターボチャージング・システムズ・ジャパン(降格)事件 東京高裁 平成17.1.19 東京地裁 平成16.6.30

営業担当社員に対する4度にわたる降格(年俸約1400万円→640万円に低下)の効力についての争い。

第一審

降格処分は使用者の人事権限に基づくものであると認められるところ、人事権の行使は社会通念上著しく妥当性を欠き、人事権の濫用にあたる場合は無効になる。

こうした基準から判断し、4次にわたる降格はいずれも無効である。

差額賃金および慰謝料100万円の請求が認容された。

上告審

いずれも人事権の濫用であるとし、無効であるとした。

イセキ開発工機(賃金減額)事件 東京地裁 平成15.12.12

就業規則変更に伴い、旧規定下で主事だった者が、新規定で一般職2級に降格となった。これにより月額給与が約11万円低下。原告は、この就業規則に対し同意書を提出していた。

同意書提出により、就業規則の適用は受ける。

しかし、原告の同意の主旨は、旧規則における能力考課の方法を著しく逸脱するような降格権限を認めたものとは言い難い。原告は、旧規則における能力考課において、中位以上の考課を受けており、新規則下で31%もの減給がされるのは、旧規則下における能力考課の方法を著しく逸脱しており、同意書(原告は旧規則下の能力考課を著しく逸脱する降格権限までも認めたとはいいがたい)の趣旨に著しく反する。

したがって、降格権限を逸脱するものとして無効。

差額賃金請求が認容された。

中央情報システム事件 大阪地裁 平成14.3.29

経理部次長から業務部勤務へ配転・降格になり、年俸額が半減した。

年俸額のなかには、使用者が従業員の同意なくして一方的に減額することのできない資格給的要素も含まれていること、正規の改訂時期と異なる時期に減額が行われていることも考慮すれば、本件減額は無効であるといわざるを得ないとした。

アーク証券(本訴)事件 東京地裁 平成12.1.31

営業社員の成績不良を理由に、就業規則上は降格・降給の根拠規定がないのに、職能資格制度における従業員の資格・等級を一方的に引き下げた(課長職を4年間で主任職にまで引き下げ、賃金を60万円から28万円強にまで引き下げた。)

なお、会社は後に就業規則の変更を行い、変動賃金制(能力評価制)と称する降格・減給の根拠となる規定を設けたが、判決はこの就業規則の不利益変更について、高度の必要性を認めるに足る証拠がないとして、変更の合理性を否定した。

倉田学園事件 高松高裁 平成1.5.25

満60歳までの終身雇用が予定されている私立高等学校・中学校の教諭らに対して、懲戒権の行使として、雇用期間を1年とする常勤又は非常勤講師への降格処分が、その処分後の雇用形態の差異に照らし、労働契約内容の変更にとどまるものとみることは困難として、許されないとした。

資格・等級の切り下げなどが認められた例

セフテック事件 東京地裁 平成16.3.9

経理課長に対する賃金・賞与の減額は、課長の業務上のミス(手形紛失や部下・支店への指導懈怠等)を理由とする降格の結果であって、組合差別の意思を推認することはできない、とされた。

光洋精工事件 大阪高裁 平成9.11.25

同僚との賃金・退職金に格差があるという理由により、その差額と遅延損害金を求めたが、労働者側敗訴。

もともと会社の職能資格制度は同等の勤続年数の従業員に差が出ることを予定しており、当該労働者は他の退職者よりも平均勤続年数が9年短いにもかかわらず、それより勤続の長いものも多数、同じ級に格付けされていた。

裁判所は「人事考課をするに当たり、評価の前提となった事実について誤認があるとか、動機において不当なものがあったとか、重要視すべき事項を殊更に無視し、それほど重要でもない事項を強調するとか等により、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできない」としている。

単なる配転に伴う賃金引き下げ

単なる職務内容の変更に伴う賃金の切り下げは、労働者の同意や就業規則の定めがない限り、無効となります。

逆に、降格処分をしても、同一職務に従事させながら賃金のみ減ずるものであれば、労基法上の減給制裁の制限違反となる場合もあります。

 

デイエフアイ西友(ウェルセーブ)事件 東京地裁 平成9.1.24

業務成績不良を理由に当初の契約内容であるバイヤーとは異なる職種への配転を命じられ、配転後の職種の他の従業員と同等の賃金額に減額 。

降格・降給ではなく、職種変更(配転)に伴う賃金減額が争点の一つとなった。

裁判所は、配転と賃金とは別個の問題であって、法的には相互に関連しておらず、労働者が使用者からの配転命令に従わなくてはならないということが直ちに賃金減額処分に服しなければならないということを意味するものではないとした。

そして、使用者はより低額な賃金が相当であるような職種への配転を命じた場合であっても、特段の事情のない限り、賃金については従前のままとすべき契約上の義務を負っているとした。

東京アメリカンクラブ事件 東京地裁 平成11.11.26

基本給の減額のように労働条件の極めて重要な部分については、単に当該労働者が明確に拒否しなかったからといって、それをもって黙示の承諾があったものとみなすことはできないとされた事例。

ウエイトレスとして採用され、その後電話交換手として稼働していた労働者が、電話交換業務の廃止に伴い、洗い場に配転され、賃金を減額された事案。

職種変更(配転)に伴う基本給の等級号俸に応じた基本給が明示され、職種・職務にこれをあてはめることによって、基本給が決定されるから、職種変更に伴い当然に基本給は変更されると使用者は主張。

しかし裁判所は、被告においては、厳密には全職名と等級号俸とが関連づけられておらず、従業員の受ける不利益を考慮したり、従業員との合意に基づいたりして、等級号俸制を弾力的に運用してきたのが実情であり、職務の変更に伴い当然に変更された等級号俸を適用しているということはできないとして、賃金減額を無効とした。

降格に追い打ちをかける懲戒処分

神戸化学工業事件 大阪地裁 平成9.2.126

降格のうえにさらに懲戒解雇した事案。

原告のその他の度々にわたる報告懈怠等の事実は、もっぱら原告の管理職たる製造課長として適格性の不存在に起因するというべきところ、被告は、原告の右適格性に疑問を抱いて、原告を、製造課長から平社員に降格したのであるから、これにより、原告は、実質的には、既に被告により相応の措置を受けたというべきである。

したがって、被告が、右に加えて、さらに追い打ちをかける形で、懲戒解雇により、原告の被告の従業員(平社員)としての地位まで奪って退職金を受給することを不可能ならしめることは、管理職としては適格性を欠くとしても一従業員レベルで見た場合の原告の10年余の功労をまったく無に帰せしめるものであって、原告にとって苛酷にすぎるというべきである。

配転+降格

日本ドナルドソン青梅工場事件 東京地裁八王子支部 平成15.10.3

就業規則上に人事異動に伴う賃金減額措置をなしうる旨の規定があり、編集業務から倉庫業務に配転して賃金を66万円から26万円に減額した。

まったくの自由裁量で減額できるとは到底解されず、不利益を許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的事情がなければ無効だとされた。

日本ガイダント仙台営業所事件 仙台地裁 平成14.11.14

営業成績不振を理由に営業職(給与等級PⅢ)から営業事務職(PⅠ)に配転し、賃金を半減し、31万円にした。

従前の賃金を大幅に切り下げる場合の配転命令の効力を判断するに当たっては、賃金が労働条件中最も重要な要素であり、賃金減少が労働者の経済生活に直接かつ重大な影響を与えることから、配転の側面における使用者の人事権の裁量を重視することはできず、労働者の適性、能力、実績等の労働者の帰責性の有無及びその程度、降格の動機及び目的、使用者側の業務上の必要性の有無及びその程度、降格の運用状況等を総合考慮し、従前の賃金からの減少を相当とする客観的合理性がない限り、当該降格は無効と解すべきである。そして、本件において降格が無効となった場合には、本件配転命令に基づく賃金の減少を根拠づけることができなくなるから、賃金減少の原因となった給与等級PIの営業事務職への配転自体も無効となり、本件配転命令全体を無効と解すべきであるとされた。

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