事前に明確にしておかないと争いになる
形式上は自己都合退職だが、事実上の懲戒解雇相当の事由がある場合、退職金の支給不支給が問題となります。
「懲戒解雇の場合には退職金を支給しない」という規定だけでなく、これに加えて「懲戒解雇に該当するが手続上他の形式により退職させた場合も含む」という趣旨の規定を置いておくことに注意しましょう。
退職時に本人から、「自分の行為は本来懲戒解雇に相当するものであることを認める」旨の念書をとってこようとする場合があります。
納得いかない書類には一切サインしないことが事後トラブルを避けるためには賢明な方法といえるでしょう。
斉藤組事件 札幌地裁 昭和61.3.27
事実上懲戒解雇理由が存在したと認定。
建設会社の従業員が社外の者から会社の経理関係書類の工作を依頼され、工作の謝礼として10万円を受領していたことが判明。
会社としては懲戒解雇に該当するが、懲戒解雇にした場合の本人の将来への影響等を考えて、形式上は「事業縮小のため」との理由とし、中小企業共済制度による退職金は出すが、その余の退職金は支払わない旨提案し、本人もこれを了承したため、右の理由をもって解雇した。
ところが、その後になって解雇された従業員が退職金を請求した。
裁判所は、「原告は、・・・形式的には「事業縮小のため」という会社都合を理由として解雇されたものの、その実質は懲戒解雇であり、原告も右の事実を承知していたと言うべきである。・・・・被告の退職金規程には第5条に「就業規則の規定により懲戒解雇した場合には、退職金を支給しない。手続上依願退職の形式により退職させた者も含む」との定めがあることが認められるところ、右後段の規定の趣旨は、実質は懲戒解雇であるが、会社が当該従業員の将来を考えて、懲戒解雇とはせず、別の形式をとって退職させ、当該従業員もそのことを了解している場合は、退職金は支給しないというにあると解されるから、その形式としては必ずしも依願退職の形式がとられた場合に限られず、これと同視しうる場合も含まれるものと言うべきである。
本件の場合、・・・被告の担当者・・・が原告に対し、懲戒事由の存在を説明し、原告においても特にこれを否定せず、形式上「事業縮小による解雇」とすることを了解していたのであるから、依願退職の形式によって退職させられたのと同視しうる場合として、右後段に該当するものと解するのが相当である。」