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通常より広い裁量が認められている
本採用拒否は解雇にあたりますが、通常の解雇の場合より広い範囲の解雇事由が認められるといえます。
雅叙園事件 東京地裁 昭和60.11.20
総務経験者として採用したが、
(1)タイムカードのチェックなどの簡単な作業でも2日かかり、人事労務関係の書類の作成にもミスが多かった
(2)試用期間を延長した後も、給与計算や報告書のミスが何度注意されても直らず、仕事に対する注意力にも欠けていた
などを理由とした本採用拒否について、有効とされた。
三菱樹脂事件 最高裁 昭和48.12.12
右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。
いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入った者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。
換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしてその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができる。
日本コンクリート工業事件 津地裁 昭和46.5.21
会社の試用期間中の社員の継続雇用に関する認定基準内規の試用期間中の出勤率90%に満たないとき、あるいは3回以上無断欠勤した場合などには、社員として継続雇用しないものとされているケース。
裁判では、それに該当した社員を勤務状況内規に照らし社員として不適格と判断した本採用拒否による解雇は正当とされた。
政治信条を理由とする場合
本採用拒否が政治的信条を理由とする場合には、憲法14条・労基法3条に違反するとされています(山武ハネウェル事件 東京地裁 昭和32.7.20)。
経歴・学歴詐称
経歴・学歴詐称については、解雇を認めないものと(三愛作業所事件 名古屋高裁 昭和55.12.4)、解雇を認めたもの(日本精線事件 大阪地裁 昭和50.10.31)があります。
判例の傾向としては解雇を無効とするものが多いようです。
業務不適格・勤務成績不良
業務の修得に熱意がなく、上司の指示に従わず、協調性に乏しいことを理由として、解雇を有効とした例があります(松江木材事件 松江地裁判決 昭和46.10.6)。
他方、「試用期間中の者に若干責められるべき事実があったとしても、会社には教育的見地から合理的範囲内でその矯正・教育に尽くすべき義務がある」として、解雇権の濫用と判断した事例も少なくありません(高橋ビルディング事件 大阪地裁 昭和45.10.9)。
サカモト事件 大阪地裁 平成15.9.26
会社が、試用期間中の原告の経理処理をもって経理担当者として不適切と判断したことは、合理的な理由があるというべきであり、経理担当の目的で雇用された原告の解雇は有効。
小太郎漢方製薬解雇事件 大阪地裁 昭和52.6.27
会社の人事課員として試用期間中の者に対し、賞与の袋詰作業中連続して4回も金額を数え違えたことなど初歩的な誤りが多いことを理由とする本採用拒否。
些細なミスとは言えないが、人事課員としての職業能力を疑わしめるほどの過誤があるとはいえないとして、解雇を無効とした。
業績不振
業績不振による本採用拒否も、整理解雇の要件を満たさない限り無効とされています(ニッセイ電機事件 東京高裁 昭和50.3.27)
言動の不適格性
通常より厳しく適用しても許されるとされています。
新田交通事件 東京地裁 昭和40.10.29
申請人が、試用期間中、前記のように粗暴な放言をしたり、軽率な発言等により同僚多数の反感を買う等、非協調性を明らかに示す行為があったため、会社は申請人を従業員として不適格と判断し、本件解雇に及んだものと認めるのが相当である。
淡路交通事件 神戸地裁洲本支部 昭和43.1.10
試雇傭中のバス車掌が乗務中、職場の先輩たる従業員に対し、車掌として不適当な言葉を使い、同人を立腹させ、上長の監督者から謝罪するように言われて謝罪したが、その謝罪に一片の誠意も見られない態度は、会社の期待を裏切ったものであり、車掌としての適格性を欠くとしてなした会社の解雇は有効である。