ブラック企業対策に消極的な理由
「むしろ、訴えた当人には受難が待ち受けているかもしれません。理由は2つあります。まず、訴えた当人が、企業の不当労働の実態を立証しなければいけないこと。
例えば、サービス残業の証拠としてタイムカードの記録を提出したとします。しかし、ブラック企業はある意味、確信犯的に不当労働をさせているので、〈タイムカードに記載されていても、労働していたとは限らない〉と反論し、決定的な証拠にはなりません」
ドロボーに金を盗まれたと訴えても、「おまえが立証できなきゃ逮捕しない」と言われるようなものだ。しかも、企業によっては大人数の顧問弁護士を抱えている。個人でその連中を相手にするのは至難の業だ。
「2つ目は、匿名の通報では、なかなか勝ち目がないこと。やはり実名でないと、労基署も動きづらい。でも、ほとんどの人は会社に名前がバレるのが怖いから、二の足を踏んでしまうのです」
労働基準監督官が全国で約3000人と少ないこともネックだ。東京労働局中央労働基準監督署は、「情報提供があれば、必ず監督官が企業を立ち入り調査します。ただ、人員の問題もあり、あす、あさってにすぐというわけにはいかないのが実情です」と言っている。
後回しにされているうちに、闘争心は萎えてくる。次の仕事も探さなければいけない。こうやって、ブラック企業は逃げ延びるのだ。
リストラ部屋で仕事を与えられないといった個別のケースについては、「労働基準法に〈労働者が望む仕事をさせる〉という条文は存在しません。したがって、極端に言えば、会社は労働者に草むしりさせてもよく、労基署ができるのは〈斡旋〉ぐらいです。
離婚裁判の〈調停〉と同じで、お互い歩み寄りましょうと言えるだけ。それじゃあ、民事で争えるかというと、会社も訴えた人のウイークポイントを突いてきます。〈いかに無能な人材であるか〉を散々指摘され、心が折れる人が多いのです」
会社と闘うのなら、絶対に折れないと心に誓い、出来るだけ証拠を集め、賢い闘い方をするのです。