社内いじめ及び男女差別の判例集

男女差別の判例集1

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住友金属工業(男女差別)事件 大阪地裁 平成17.3.28

概要
会社は、昭和37年から50年にかけて採用された高卒従業員について、男性は本社一括採用・長期実習・本社及び各事業所配属・判断や交渉を伴う基幹的業務に従事させてきた。

これに対し、女性は、本社及び各事業所で採用し、定型的補助的業務を担当させてきた。また、女性は短期間で退職することを前提とし、結婚退職金の割増など、これを奨励する措置をとっていた。

さらに、高卒男性事務職は、ほぼ全員が上位の職に昇進しており、また、そのような評価が下される範囲の勤務評定となっており、高卒女性は、優秀者であっても、低位の職にとどまるような評定がなされていた。

こうしたことから、昇格及び昇給に差が発生し、賃金に歴然とした違いが生じた。
原告4名は、これを性別による差別的取扱いだとして、得べかりし賃金との差額相当の損害賠償等(4名計3億2,500万円)を請求した。

判決
当時の時代背景を前提とすると男女別の募集・採用は、直ちに公序良俗違反とはいえず、採用後の異なった取扱いについても当然に公序良俗違反ではない(均等法によりこれを直接禁止したのは平成11年4月以降)

しかし、同等な能力を有する者について、明らかに差別的な評価を下し、これに基づいてコース別の取扱いをすることは民法90条の公序に反する差別的取扱となり、会社は不法行為責任(民法709条、44条、715条)を負う

本社採用と事業所採用による差であるという会社側主張も認めがたい。
ただし、原告らが主張する標準的な男性事務職との差額全額まで支払うことが相当とは認められない。

こうした判断から、事務技術職へ転換した男性技術職との差額賃金相当額の支払い(1,415万円、1,413万円余、1,125万円、887万円余)と、さらなる上位職種への登用の道を閉ざしたことに対する慰謝料(300万円、250万円、200万円、150万円)を認めた。

名糖健康保険組合(男女差別)事件 東京地裁 平成16.12.27

概要
女性職員らが、女性であることのみを理由として、賃金及び昇格において差別されたと主張し、主位的には各労働契約に基づく差額賃金、予備的には不法行為に基づく差額賃金相当額の損害賠償等を求めた。

判決
昇進および昇格しない理由が男女差別であるとはいえず、昇進および昇格請求はいずれも認められないとする一方で、賃金については、労働者としての資質・能力や従事した職務の質及び量において、また勤務成績において、男性職員である対象者に劣るということはできず、少なくとも採用された当初は業務の習熟度も女性職員らがはるかにまさっていたにもかかわらず、採用時の基本給等が職員らの当時の基本給等を下回り、その後もより低い水準で推移している理由については、結局女性であることが理由であるとして、不法行為に基づいて、入社以降の差額賃金を基礎に算定したうべかりし賃金相当額分、慰謝料を損害額とする範囲内において、請求を認容した。

岡谷鋼機(男女差別)事件 名古屋地裁 平成16.12.22

概要
コース別人事管理制度があった。
男性従業員は総合職に配置され職能資格又は役割等級が付与されたのに対し、女性従業員は事務職に配置されたうえ、担当職1級の職能資格しか付与されなかった。

このため、原告2名は男性従業員との賃金・退職金差額(6,121万円、3,219万円)と慰謝料・弁護士費用を請求した(昭和63年の組織人事制度の変更が発端となった)

会社は、これを職務区分の結果によって生じた差だと主張した。男性は本社選考であり、全国・海外の異動がある。女性は、各地の支店採用で、勤務地が限定されていた。

判決
原告らが入社した当時は、男女雇用機会均等法のような法律もなく、企業には広範な採用の自由があり、当時は女性の短い勤務年数等の勤務実態からすれば、企業において効率的な労務管理を行うために、男女のコース別採用、処遇を行ったことは、不合理な差別として公序に反するとまでいうことはできない。

勤務地・職務・経験の差により女性も男性同等の昇格をさせなくても違法とはいえず、労働基準法第4条違反となる公序に反するものではない。

実際の格差は大きいが、入社後の経験・知識により自ずから異なってくるものだから、そのまま損害額とすることは困難である、とした。
とはいえ、均等法が施行された平成11年4月1日以降は、採用された従業員について男性を総合職、女性を事務職に位置づけるというのは、同法6条違反だとされた。

そのため、平成11年以降の差別により損害賠償義務は存在するとされ、慰謝料550万円(うち50万円が弁護士費用)が認められた。
なお、同年以前に退職した原告については、請求の理由がないとされた。

野村證券事件 東京地裁 平成14.2.20

概要
旧野村證券の「リーダー職」である女性社員12名(原告)が、同期同学歴の男性社員は入社13年次には「課長代理」(現「指導職一級」)に昇格したのに対し、原告らが「課長代理」に昇格していないのは、同社による女性差別のためであるとして、「指導職一級」の地位の確認、及び賃金の差額、慰謝料等を請求した。

判決
男女雇用機会均等法が施行された平成11年4月以降も、会社が男女のコース別処遇を維持したのは違法な男女差別であるとし、原告らが被った精神的苦痛に対する慰謝料(総額5,090万円)の支払を命じた。

しかし、同期入社の男性と同等の地位確認の請求は、昇格の決定は「使用者の総合的裁量的判断は尊重されるべき」であり、「男女問題で知識、経験にも違いがあったと考えられる」として請求を退けた。

同様に原告らに差額賃金の請求権もないと退けた。

住友生命(既婚女性賃金差別)事件 大阪地裁 平成13.6.27

概要
既婚女性社員12人が、結婚していることを理由に、未婚女性社員に比べて、考課査定、昇格、格付けにおいて差別をされたのは違法であると主張し、差額賃金等の支払いを求めた。

判決
被既婚者であることを理由に、一律に低査定を行うことは、人事権の範囲を逸脱するものであり、合理的な理由に基づかず、社会通念上容認し得ないものであるから、人事権の濫用に当たり、人事考課、査定を受けた個々の労働者に対する不法行為に該当する。

過去3年間の差額賃金及び慰謝料(合計約9,000万円)の支払いを命じた。

内山工業(男女賃金差別)事件 岡山地裁 平成13.5.23

概要
会社は女性社員19名(退職者8名を含む)が、女子であることを理由に、勤続年数・年齢を同じくする男性従業員に比較して、賃金(基本給、一時金等)の支給につき差別をしたとして、過去10年間の差額賃金を請求された。

職務は賃金表の適用が異なるAの職務(Ⅰ表適用)とBの職務(Ⅱ票適用)に区別され、女子の多くがBの職務の職場に配置されていたが、被告では昭和56年以前は賃金表を男子賃金表・女子賃金表と性別で区分していた。

判決
男女間に賃金格差がある場合、使用者側で賃金格差が合理的な理由に基づくものであることを示す具体的かつ客観的事実を立証できない限り、その格差は女子であることを理由として設けられた不合理な差別であると推認することが相当である。

昭和63年から平成7年10月までの基本給及び基本給を算定基礎として支給された一時金、退職金について不合理な男女差別が存在したと認め、不法行為に基づく損害賠償(総額約2億1,100万円)の支払いが命じられた。

東朋学園・高宮学園事件 東京高裁 平成13.4.17 東京地裁 平成10.3.25

概要
賞与の支給要件として出勤率が90%以上であることを要件としている条項に基づき、産前・産後休業、勤務時間短縮措置による育児時間を取得した女性労働者(原告)が、出勤率が90%に達しない者とされ賞与が支給されなかった。

これを不服として、支給されなかった賞与分、不法行為による損害賠償を請求した。

判決
東京地裁
90%条項中、出勤すべき日数に産前・産後休業の日数を算入し、出勤した日数から産前産後休業の日数及び勤務時間短縮措置による育児時間を除外すると定めた部分は、労働基準法及び育児休業法の趣旨を没却させるもので、公序良俗に違反し無効とし、賞与の全額払いを命じた。

東京高裁
一審判決を支持したうえ、さらに不就労期間に対応する減額についての学園側の主張も否定。

最高裁へ上告

芝信用金庫差額賃金等請求事件 東京高裁 平成12.12.22 東京地裁 平成8.11.27

概要
勤続18~40年に及ぶ「主事資格」である女性職員13名(原告)が、昇進、昇格において女性であることを理由に差別的な待遇を受けたとして、同期同給与年齢の男性社員がもっとも遅く課長職になった者と同時期に「課長職の資格」「課長職の職位」にあることの確認、また差額賃金の支払い、不法行為に基づく損害賠償、慰謝料等を請求した。

判決
東京地裁
男性については年功によって全員が副参事(後に課長職)に昇格する労使慣行があるが、女性に対してこれを適用しないことは、性別により労働条件について差別的な取扱いを受けないと定めた就業規則に違反するとし、同期同給与年齢の男性との差額賃金の支払を命じるとともに、同期男性と同じ地位を命じるとともに、同期男性と同じ地位(課長職)にあることを確認した。

東京高裁
資格の付与が賃金額の増加に連動しており、かつ、資格を付与することと職位に付けることとが分離されている場合には、資格の付与における女性差別は、賃金差別と同様に考えることができ、原告らは「課長職の資格」にあることを確認し、退職金を含む差額賃金の支払いとともに、不法行為として慰謝料、弁護士費用の支払いを命じた。

平成14年に最高裁で和解解決(原告らを課長職に昇格させることで和解)

塩野義製薬差額賃金等請求事件 大阪地裁 平成.11.7.28

概要
昭和40年入社後一般事務職として勤務し、昭和54年製品担当者(「製担」という。)となり、その後平成3年課長待遇を経由し、平成7年に退職した女性労働者が、「製担」という同期入社男性とまったく同じ職務に就いていたにもかかわらず、能力給について月10万円以上の格差があったとして、同期入社男性社員の能力給平均との差額、これに基づく賞与、退職金の差額を請求した。

裁判所は、昭和60年から平成7年までの10年分の賃金差額約2,500万円(能力給差額約1,350万円、賞与差額約850万円、退職金差額約320万円)の支払いを命じた。

判決
被告は、昭和54年6月に、原告を、その職種を変更して製担としたのであるから、同じ職種を同じ量及び同じ質で担当させる以上は原則として同等の賃金を支払うべきであり、その当時、基幹職を担当していた同期男性5名の能力給の平均との格差が少なくなかったことからすれば、生じていたその格差を是正する義務が生じたものといわなければならず、その義務を果たさないことによって温存され、また新たに生じた格差は不合理な格差と言うべきである。

そして、被告は、昭和55年から同57年までの昇給は、その是正を図ったもとの評価できるものの、結局は是正には至らなかったのである。

これによれば、本件格差は、採用時における職務担当における男女の区別に起因するものであり、右是正義務を果たさないことによって生じた格差は、男女の差によって生じた不合理なものといわなければならず、即ち原告の賃金を女性であることのみをもって格差を設けた男女差別と評価しなければならないものである。・・・・・・・

労働基準法4条は、男女同一賃金の原則を定めるところ、使用者が女性従業員に男性従業員と同一の労働に従事させながら、女性であることのみを理由として賃金格差を生じさせた場合、使用者としては右格差を是正する義務があり、右是正義務を果たさない場合には、男女同一賃金の原則に違反する違法な賃金差別として、不法行為を構成する。

本件においては、原告が他の男性従業員と同様の製担としての業務を担当し始めた昭和54年6月以降、原告が女性であることのみを理由に他の男性従業員との間に賃金格差が生じており、被告は右賃金格差を是正する義務が生じていたのに、これを果たさなかったことは前述のとおりである。

してみれば、被告に少なくとも過失による不法行為が成立するものというべきである。

丸子警報機事件 長野地裁上田支部 平成.8.3.15

概要
自動車部品メーカーの組立ラインに従事する臨時作業員28名(原告)が、勤務時間も勤務日数も仕事内容も正社員と変わりなく、短い者でも数年、長い者では25年以上働いているにもかかわらず、全く同じ作業をしている女性正社員と賃金格差があるのは同一価値労働同一賃金の原則に反し違法だとして、正社員との賃金格差相当の損害賠償、及び慰謝料を請求した (230万円~550万円)。
平成11年に東京高裁で和解成立

判決
地裁は、臨時社員の労働の内容は女性正社員と同一であると判断し、会社が正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しつつ長期間の雇用を継続したことにより、公序良俗に反し違法として、差額賃金相当の損害賠償を命じた。

また同一(価値)労働同一賃金の原則はこれを明言する実定法の規定は存在しないが、その根底には均等待遇の理念が存在し、それは人格の価値を平等とみる市民法の普遍的な原理と考えるべきものであるとした。

ただし、均等待遇については、ある程度会社の裁量も認められるとし、臨時社員の賃金が同じ勤続年数の正社員の8割以下になるときは裁量の範囲を超えるという判決となった。

その理由は、
1. 使用者の臨時従業員制度の存在意義は認めることができる

2. 使用者の臨時従業員制度は、その運用において労働基準法4条より禁止される男女差別があったとは認め られない

3. 「正社員」と「臨時社員」の区別は、労働基準法3条にいう「社会的身分」には該当しない

4. 臨時社員の労働内容が女性正社員と同一であるにもかかわらず両者間に賃金格差を設けている使用者の臨 時従業員制度は、同一(価値)労働同一賃金の原則の根底にある均等待遇の理念に違反する格差があり、 公序良俗違反となる

5. もっとも、同一(価値)労働同一賃金の原則は公序ではないこと、均等待遇の理念も抽象的なものであり 均等に扱うための前提となる諸要素の判断に幅がある以上使用者側の裁量を認めざるを得ないと、されて いた。

8割という基準には明確な根拠が示されていないが、正社員と非正社員の仕事の内容がほとんど同じである場合に、正社員でないというだけで賃金に極端な差を設けることに歯止めをかけたものと言える。

和解
1. 給与を日給制から月給制にする

2. 今後5年間に毎月3,000円ずつの月給増額で格差を是正する

3. 一時金の支給月数を正社員と同じにする

4. 和解成立後の勤続に対する退職金の計算方法を正社員と同一にし、和解成立時までの勤続に対する退職金 は従前の2.5倍に改める 等

賃金体系の是正により5年後には、原告らの賃金は正社員の90%前後に改善されることになった。

 

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