労働問題として「いじめ」をとらえることの難しさ
前出の例は、いわゆる労働問題としてのいじめではありません。
しかし、職場で起こっている「いじめ」の問題もこれとよく似たところがあって、はたしてそれが「労働問題」なのか、そうでないのか、はっきりせず、相談担当者泣かせとなっています。
これとよく似た例として「セクハラ」があります。
セクハラの場合、「本人がセクハラと感じた」かどうかが大きな区分点とされています。
そういう定義をしないと、判断に迷う例が多いためですが、「いじめ」に関しては同様なメルクマールがないので、現実に労働問題なのか、そうでないのか、判断するのは容易ではないのです。
いじめの3段階
「職場でいじめられている」という訴えを分類すると、次の3種類に分けることができます。
これは、職場でのリストラの進行度合いと深く関連しています。
(1) 自然発生的ないじめ
会社の業績向上やリストラに対する圧力が高まると、企業は職場の従業員数を減らし、ノルマを増やす傾向にあります。
しかし、従業員のすべてが会社側の要求に応えられるわけではありません。
グループで仕事をしているような場合は特に、「足でまとい」と評される同僚が回りから阻害されるようになります。
性格的に弱いとみなされた人、後ろ盾のない人、孤立しがちな人、コミュニケーションが下手な人などが、周囲の人たちから自然発生的にいじめの対象とされがちといえます。
いわゆるスケープゴートになってしまう場合です。
(2) リストラに連動して起こるいじめ
会社のリストラ策が進んで「希望退職」などが募集されるようになると、積極的な人員削減の手法として、いわゆる「肩たたき」が行われます。
これを「いじめ」だと感じる人が少なくありません。
従業員の選別が厳しくなると、「会社の自分に対する評価」についての意識も過敏となってきます。
この場合に、「自分の自分に対する評価」と「会社側の評価」は、往々にして異なることが多いのです。
従業員側としては、「日頃から自分を理解してくれない上司の存在」や「自分の能力が十分発揮できない悪条件」「事業方針についての自分の真摯な提案を受け入れない頑迷な経営陣」「保身に走り、性格のゆがんだ同僚たち」など不条理な存在がいじめの根元にあると主張することになります。
しかし実際のところ会社側に照会すると、客観的な証拠に裏付けられた成績不振が提示されたりしてしまい、置かれた状況が「人権侵害」に相当するいじめなのかどうか判断が難しいことが少なくありません。
(3) リストラ後期のいじめ
会社の人員削減が終盤戦になると、今度は、会社組織構造自体の変革が行われます。
支所や営業所が廃止されたり、会社分割や営業譲渡、子会社の整理統合、特定事業部門からの撤退、などがそれです。
これまでリストラに抵抗し、希望退職や肩たたきにも応じず、賃金引下にも耐えてきた人が、この段階で「配転・出向(在籍)」という形になります。
就業規則において包括的に「配転・出向に応ずる」旨の規定がある場合、これを拒否すれば職務命令違反とされ、解雇理由となります。
会社側としては、雇用維持のために講じた措置でやむを得ないという主張をするでしょう。
この配転・出向命令が不当と証明するためには、会社側に悪意があって自分だけが差別的に候補に上げられたと立証することが必要です(例えば、労働組合の役員だった場合など)
でも、この段階になると周りの同僚も大勢、同じ境遇に置かれていますし、何よりもこれまで「希望退職」等を拒否してきたという、動かし難い事実を本人が作ってきていることから撤回が困難なケースが多いと考えた方がいい、というのが現実です。