偽装請負とは

偽装請負とは

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偽装請負とはなにか?

現在、業務請負という形式での労務提供が広がっています。

請負とは「いついつまでに、これこれの仕事をやってください」という形で仕事を受けること。労働時間管理などが、発注元から求められることはありません。

ところが、実態としては労働者派遣であるのに、請負という形だけをとった「偽装請負」あるいは「違法派遣」と考えられるものが少なくありません。

請負とは、「労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法)」ですが、派遣との違いは、発注者と受託者の労働者との間に指揮命令関係が生じないということがポイントです。

したがって、偽装請負や仮装委託となるのは、形式的に請負契約や業務委託契約がなされていても、自ら労働者を指揮監督せずに、発注者や委託先が実質的に受託者の労働者を指揮命令して、業務を遂行しているといった「雇用と使用が実質的に分離」しているケースです。

こうした「偽装請負」は違法です。職業安定法、労働基準法、労働者派遣法などに違反するのです。

とくに、1999年の労働者派遣法改正で労働者保護についての多くの新たな規定が導入されたために、労働者派遣法の適用を逃れる目的で「偽装請負」の形式が広がっているのが現実です。

税務署等に個人事業主として届出を提出させておき、「請負関係」と称しながらも、実際には指揮命令下に置いて雇用責任を逃れようという事業主も存在します。

派遣労働の分野では、書類上、形式的には請負(委託)契約を結びつつ、実態としては派遣労働とまったく同じ形で働かせるケースもありますが、違法です。

請負と労働者派遣の違いは・・・

適法な請負

適法な請負

偽装請負

偽装請負

社外労働者と受入企業との間に黙示の労働契約が成立すると認められるためには、社外労働者が受入企業の事業場において同企業から作業上の指揮命令を受けて労務に従事していること。

実質的にみて、派遣企業ではなく受入企業が社外労働者に賃金を支払い、社外労働者の労務提供の相手方が派遣企業ではなく受入企業であることが必要だとされます。(ナブテスコ事件 神戸地裁明石支部 平成17.7.22)。

 

請負だと、労働者保護の対象外に

契約が「請負」契約であれば、それを締結した個人は業者ということになり、労働者ではなくなります。このため、労働基準法の適用を受けず、労働時間に関する規制などの対象とはなりません。

原則的には下記のような違いがあります。

雇用契約(労働者)の場合

偽装請負・偽装委託契約の場合

解雇には、合理的な解雇理由が必要。解雇予告制度もある。整理解雇にも要件がある。

契約終了後、仕事がまた来るとは限らない。

就業規則や労働協約によらない労働条件の切り下げは、本人同意または合理的理由が必要だとされる。

条件交渉は対等。折り合わなければ仕事を切られる。

会社の業務命令には従う義務がある(忠実義務違反)。

会社から直接業務指示を受けない(はずだが・・・)

労働時間に拘束され、出勤時間・退社時間は守る義務がある。

労働時間の拘束はない(はずだが・・)。

逆に、休憩時間が必要。

休憩を与える義務はない。

残業代(時間外手当)が支払われる。休日出勤に割増賃金がある。

残業代等は出ない。休日に出勤しても手当はない。

賃金の支払原則がある(全額を月1回定日、直接本人に通貨で払う)

支払時期は契約内容による。手形等による支払も可能。

通勤手当が支給されることが多い。

通勤費用は出ない。

住居手当等が支給されることが多い。

手当類はない。

有給休暇がある。

有給休暇はない。

育児休業や母性保護制度が適用される。出産手当金によって、産休期間の収入の3分の2が保障。出産育児一時金35万円。

育児休業・母性保護制度が適用されない。国民健康保険には出産手当金制度なし(一時金は出る。35~40万円)。

業務災害・通勤災害の際の労災適用がある。

労働災害の場合、本人が特別加入等をしなければ、補償されない。

社会保険料・雇用保険料の会社負担がある。

会社は社会保険料・雇用保険料の負担をしない。

仕事に繁閑があっても、賃金が増減する割合が少ない。

仕事がないと契約を切られるので、収入はゼロになる。

失業した場合、雇用保険の失業給付が出る。

会社から仕事を打ち切られたら、会社との関係は切れる。失業給付はない。

失業した場合、教育訓練給付が受けられることがある。

教育訓練給付の対象とならない。

社会保険による健康保険に加入すると、私傷病でも傷病手当金が受け取れる。

国民健康保険に加入。保険料は全額、本人負担。また、国民健康保険には傷病手当金の制度はない。

社会保険の埋葬料は5~10万円。

国民健康保険の給付で葬祭費は、2万円~10万円。

社会保険制度による年金加入。

国民年金加入。

仕事に必要な費用・道具は会社が支給する。

仕事に必要な費用・道具は自分で購入するか、会社と契約を結び貸与される(有償の場合もある)。

労働者は所得税・住民税を負担。会社が源泉徴収する。給与控除等がある。

会社は消費税を負担。本人は事業主として確定申告し、必要経費の控除を求める。

勤務時間中は、会社業務に専念しなければならない。

他社の仕事も請け負うことが許される。

会社に損害を与えても、全額負担することはまれ(通常4分の1程度)。

損害を与えたなら、それを補償する義務を負う。

自社の秘密は守らなければならない。

会社側にとっては、自社にない外部のノウハウや専門知識を活用できる機会を得る。

会社の研修制度を利用してスキルアップすることができる。

自分の能力は自分で高めるしかない。

年齢が上がってから他社に移籍すると、これまでの経験の多くが利用できなくなる。

年齢が上がって、体力・技能・記憶能力が衰えた場合、それをサポートしてくれる人がいない。これまでの実績も加味されない。

労働法違反を労働基準監督署に訴えることができる。

契約履行の違反は、裁判などで判断される。

労働組合を作って会社と交渉できる。

労働組合は作れるが、会社は雇用関係を否定し、水掛け論に。

「偽装請負」の問題点

労働者派遣法等に定められた派遣元(受託者)・派遣先(発注者)の様々な責任が曖昧になり、労働者の雇用や安全衛生面など基本的な労働条件が十分に確保されないという事が起こりがちです。

派遣と業務請負

「派遣社員のつもりでいたのに、いつのまにか個人事業主になっていた」。こう嘆くのは、東京都内の情報通信会社でOA機器操作の派遣社員として働いていたA子さん(28)。

昨年、人材派遣会社の担当者から契約更新時に、「次回の契約は派遣から業務請負に替えます。仕事の内容は変わらないが、手取額は増えます」と告げられ、とりあえず受け入れた。

だが、実際に業務請負になってみると、派遣時代に請求できた残業代や、交通費が請求できなくなった。通常の派遣では、派遣会社と雇用契約を結び派遣社員となって派遣先企業で働くが、業務請負は仕事ごとに発注先と請負契約を結ぶ。

このため、働く個人は労働者ではなく個人事業主扱いとなる。つまり、経費を会社に請求できた社員から自費で賄う自営業者扱いになったのだ。A子さんはこうした細かい点での説明は契約時にされていなかったという。

「派遣から業務請負への切り替えは企業には有利だが、個人にはトラブルにつながりがち」。派遣相談を手掛ける労組、東京ユニオンの関根秀一郎書記長はこう注意を喚起する。

派遣社員の場合、労働基準法など雇用されている個人を保護する法律の対象となる。しかし、業務請負では、そうした法律の対象外となり、労災や健康保険なども適用されない。

また、請負なら派遣社員に必要な保険料負担がなくなるので、関心を持つ派遣会社も少なくない。本来、派遣と請負は異なる働き方だ。だが、両者の区分があいまいなケースも多い。

実際には業務請負でありながら派遣先の指揮命令を受け、派遣社員同様の働き方をするなど混乱も生じている。(日本経済新聞 2001年9月25日夕刊)

偽装請負で深刻なのは、病気や業務災害に遭った場合です。
コンピュータ入力などの業務では、名ばかりの業務委託契約を結び、実体的には出社時間等が決められている中で、雇用と変わらない指揮命令を受け、しかも、委託業務だという理由で青天井の時間外労働を割増賃金無しでやらされるケースがあります。こうした仕事を続けると、身体や心に障害を起こしかねません。

しかし、個人事業主は国民健康保険しか適用されませんから、私傷病の場合の傷病手当金が出ません。精神的な病気の場合、本人自らが労災の申立をすることは容易でありません。

委託元は「業務委託だった」と主張しますから、協力は望めません。雇用労働者でも心の障害の場合、傷病手当金が唯一の救いとなるというケースが少なからずあります。委託だと、これが期待できなくなるのです。

また、工務店などと業務請負契約を結んでいる個人事業主は、仕事や通勤途上でケガをしても労災・通災として扱ってもらえません。

万一、発注元が倒産し、未払代金が残っていても、国の立替払制度を利用することができません。
こういったケースでは、その請負人が事実上雇用関係にあったということを立証した上で、労働者としての保護を求めることになります。
これはこれで、簡単に立証できるわけではありません。

偽装請負の罰則

実質上労働者派遣事業と同じことをしていると判断されれば、「許可を受けないで一般労働者派遣事業を行った者」として、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(派遣法第59条2号)、

または、届出書を提出(受理の効果発生)しないで、常用労働者の派遣を行うという「特定労働者派遣事業を行った者」に該当することになり、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下のの罰金」(派遣法第60条1号)に処せられる可能性もあります。また、適法は労働者派遣に該当しないものは、もともと労働者派遣形態は実質上すべて労働者供給事業(職安法第4条6項)に該当するというパターンですから、労働者供給事業の違反となり、受託側も注文者側も両者とも処罰=「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(職安法第64条9号)ということにもなります。

偽装請負の代表的なパターン

代表型 請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりしています。偽装請負によく見られるパターンです。
形式だけ責任者型 現場には形式的に責任者を置いていますが、その責任者は、発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、発注者が指示をしているのと実態は同じです。単純な業務に多いパターンです。
使用者不明型 業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bは別の業者Cに請けた仕事をそのまま出します。Cに雇用されている労働者がAの現場に行って、AやBの指示によって仕事をします。一体誰に雇われているのかよく分からないというパターンです。
一人請負型 実態として、業者Aから業者Bで働くように労働者を斡旋します。ところが、Bはその労働者と労働契約は結ばず、個人事業主として請負契約を結び業務の指示、命令をして働かせるというパターンです。

偽装請負の事例

事例1

業務の発注を受けた事業所(以下「発注先」という。)において、予め登録されている就労希望者(日々雇用のアルバイト)の中から、業務を発注していた事業所(以下「発注元」という。)の注文に応じて必要とする人員数を割り当てて発注元において就労させている等、単純に肉体的な労働力を提供していると判断された例。

請負契約等

発注先と発注元との請負契約等に、具体的な作業の完成についての記述がなく単に、当日就労する作業員の数を申し込むだけのものとなっていた。
労働者の区分に応じ1人日単価又は時間単価(残業がある場合には、別途時間単価)を決め、これらの単価に基づく実働時間により発注先に支払いが行われていた。
使用する器材、材料は、全て発注元が無償で提供していた。請負契約の作業内容は単純作業であった。

労務管理等

作業者の勤務時間及び評価を発注元が行っていた。作業内容が単純なため、専門的な教育訓練等の必要がなかった。発注元が直接指揮命令を出して、一人あるいは少人数の現場で作業員を就労させていた。
以上のことから、業務の独立性及び労務管理上の独立性もなく、単に肉体的な労働力を提供している実態にあった。(東京労働局のホームページから)

事例2

一連の単純な作業を、数名から数十名の日々雇用のアルバイト契約による作業員によって行うに当たり、発注先から、現場責任者と称する者を発注元に配置しているが、実態として、その現場責任者も含め、発注先が単に肉体的な労働力を発注元に提供しているのに過ぎないと判断された例。

請負契約等

事例1と同様。

労務管理等

発注先から送り出される労働者に対する業務の遂行方法に関する指示については、発注先が配置した現場責任者を通じて発注元から行われていたが、単純作業であることから、現場責任者は個々の作業員に発注元からの指示を単に伝えるだけでこと足りており、実態的には、発注元が指揮命令を行うものとなっていた。発注先が配置した現場責任者も同様に単純作業に従事しており、現場責任者自体も派遣労働者の一人と判断された(現場責任者の中にはアルバイト契約の者もいた)。現場責任者、作業員の出退勤・残業管理、就労状況評価を、実態として発注元が行っていた。発注元が雇用している労働者と発注先から送り込まれた作業員が共同作業を行う場合があり、その場合の指揮命令は発注元から直接行われていた。現場責任者及び作業員の交替要求が発注元からできる様になっていた。以上のことから、発注先が現場責任者を発注元に配置しているものの、事例1同様、発注先が、自己の責任と負担で、独立性を持って業務を請負っているとはいえず、単に肉体的な労働力を提供している実態にあった。(東京労働局のホームページから)

事例3

メーカーが、自社製品の販売促進のために、量販店に販売補助員の配置を行ったが、当該販売補助員は、メーカーと請負契約を結んだ業務請負業者の社員であった。
当該販売補助員は、量販店の指揮命令に従って、様々な業務を行っており、実態として、業務請負事業者からメーカーへ、メーカーから量販店へと二重に労働者派遣(労働者供給)が行われていると判断された例。

請負契約等

メーカーと業務請負事業者との請負契約の内容は、量販店売り場において自社製品の説明及び販売促進の業務の遂行であったが、実態としては、様々な業務に対応する販売補助員の派遣を目的とするものであり、量販店から各店舗ごとに必要人数の指示がメーカーに出されていた。メーカーと業務請負事業所との請負料金の算定方法は、時間単価と実働時間によるものであった。量販店とメーカー・請負事業者との間には、業務請負契約又は労働者派遣契約は存在しなかった。

労務管理等

販売補助員は量販店から社員同様に直接の指揮命令を受け、様々な業務を行っており、ミーティングの参加や量販店社員の制服着用の指示も受けていた。出退勤の管理及び休憩時間や勤務時間延長についても量販店からの指示を受けていた。(東京労働局のホームページから)

判例

埼玉県所沢市の請負社員の死亡事故。当該社員は、工場側の指揮命令下で労働していたため、実態は労働者派遣(偽装請負)であると判断された。当該工場は、労働安全衛生法違反容疑で、平成14年3月にさいたま地検川越支部に書類送検された。違法行為であることを知りながら使っていると、これを黙認していた事業所側も責任追及される。また、偽装請負を黙認していた労働者が業務上でケガ(あるいは通勤途上で事故)をすると、事業所側にも莫大な損害賠償請求がされる可能性がある。

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