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配置転換をめぐる動き
配転とは、職務ないし勤務地が変更される場合で、長期にわたるものをいいます。
日本企業では、長期雇用システムの下で、職業能力の育成や人材の調達などのために配転が広範囲に行われ、判例もこうした配転を広く認める傾向にあると言われています。
配転は企業の人事権の行使として業務命令によって行われ、その拒否は業務命令違反として懲戒処分の対象となります。
社員の配置については、会社側はかなり大きな権限を持っているといっていいでしょう(帝国臓器製薬事件、チェースマンハッタン銀行事件、ケンウッド事件)。
帝国臓器製薬事件 最高裁 平成11.9.17
東京営業所から名古屋営業所に転勤を命じられ、同じ会社に勤務する妻及び3人の子供と約6年間別居せざるを得なくなったことを違法であるとして、右転勤命令の無効確認と、単身赴任を強いられたことによる損害賠償を求めた。
一審、二審とも業務上の必要性を認め、経済・社会・精神的な不利益は甘受すべきとされた。
二審の判断基準
原告は都内を担当する職員の中で最も担当期間の長い職員の1人であり、同人だけ特別の事情もなく、異動の対象から除くことは、かえって公平を欠く。
本件転勤命令によって原告の受ける経済的・社会的・精神的不利益は、社会通念上甘受すべき範囲内のもの。
名古屋と東京は、新幹線を利用すれば約2時間で往来できる距離であり、子どもの養育監護等の必要性に応じて協力することが全く不可能ないし著しく困難ではない。
会社は、支給基準を充たしていないにもかかわらず、別居手当を支給したほか、住宅手当(赴任後1年間)を支給するなどの一応の措置を講じている。
最高裁も、これら原審の判断を支持した。
ラジオ関東事件 東京地裁 昭和55.12.25
当該労働契約において特に労働の種類・態様・場所についての合意がなされていない限り、これらの内容を個別的に決定し、抽象的な雇用関係を具体化する権限は使用者に委ねられており、使用者は右権限に基づいて、労務の指揮として、自由に具体的個別的に、その内容を決定することができる。
配置転換等の人事異動は使用者の有する右のような権限に基づく命令であり、それは、使用者が先に自らが決定していた労働契約の具体的個別的内容を一方的に変更する行為ということができ、その意味において、一種の形成行為と解するのが相当である。
従って、当初の労働契約において、労働の種類・態様・場所についての合意がなされている場合は使用者たる会社のなす配置転換の命令は、労働者に対して、当初の契約変更の申入れであり、当該労働者の同意がなければ、その効力を生じないものと解するのが相当である。
近年、こうした配転と同時に、技術革新、販売の強化、業種転換などリストラを推進するため配置転換が推進される傾向があります。
しかし、その一方で、企業中心の生活や滅私奉公を見直し、家庭や私生活尊重の風潮が強まっています。
権利の濫用になるかどうか
(1) 転勤を命じるには、労働契約、就業規則や労働協約などの根拠が必要です。また、法令違反がないか、 権利濫用にならないかチェックします。
(2) 地域限定の特約(特別の約束)があれば、それに反する転勤には同意が必要となる。
(3) 職種が限定されている場合、その職種に求められる技術・技能・資格(医師、看護婦、ボイラーマン 等)を確認し、職種限定契約かどうかについてチェックします。
(4) 業務上の必要性に比べ労働者に著しい不利益があると、会社の権利濫用となります。
(5) 不当な動機(労働組合の弱体化を意図しているなど)により行われた異動は無効とされます。
(6) 配転命令権の根拠が認められる場合でも、強行法規に違反するとき、配転命令権の濫用になるとき、配 転命令は無効です。
(7) 労働協約や就業規則に、労働組合との間に事前協議条項・同意条項などあれば、これに違反していない か。
転勤を命じるためには根拠を必要とし、通常、労働契約、就業規則や労働協約などに「業務上の必要があれば、転勤を命じる」旨の規定があると、会社は労働者に転勤を命じることができます。
労働契約上の配転命令権の根拠が必要
配転命令権の根拠があり、配転命令がその配転命令権の範囲内であることが必要です。したがって、就業規則や労働協約の規定が、配転命令の根拠とされます。
労働者は使用者との労働契約の範囲内で労務を提供する義務を負うに過ぎません。配転についても同様で、職種や勤務地が労働契約の範囲外であれば労務を提供する義務を負いません。
配転命令権の範囲については、契約上明文で特定されている場合にはそれによりますが、明文の規定がない場合には就業規則や労働協約の規定、慣行、契約締結時の状況などから判断されます。
以下のような前提があれば、使用者との間に包括的な労働処分権ないし一般的な配転命令権があると、裁判所では判断しています(必ず全部そろっている必要はない)。
(1) 労働契約締結の際、労働者が使用者の配転命令に従うとの誓約書を出している。
(2) 使用者の就業規則には転勤に関する規定が定められている。
※包括的合意があればよいという考え方が通説です。
(3) 使用者には多くの支店や出張所があり多くの従業員が転勤している。
(4) 労働契約締結時に勤務場所の特定の合意がなされていない。
包括的合意とは
包括的合意とは、就業規則や労働協約に転勤を命ずる旨規定され、同様の転勤を行った実績があるなど、労働者が将来にわたり、会社の転勤命令に合意を与えているとみなされることをいいます。