懲戒とは
労働者が会社内外で不祥事を起こした場合、内部秩序を守ることを目的で科せられる制裁のことです。
最近では、労働者の不祥事により、利害関係者(ステークホルダー)が多大な損失を被ることが見受けられることから、会社の法令順守経営(コンプライアンス経営)において重要な位置づけとなっています。
ですから、使用者は労働者を自由に懲戒処分できると思いがちで、特に就業規則などに懲戒条項が規定されている場合にその傾向が強いようです。
しかしながら、就業規則などで懲戒条項が規定されていれば、一定程度の範囲で懲戒処分の根拠となり得ますが、だからといって使用者は自由に懲戒処分をなし得るというものではありません。
不適切な処分は権利濫用とされる
懲戒処分は、あくまでも制裁罰ですので、懲戒処分の事由とのバランスを慎重に判断されなければならず、一度の遅刻や些細なミス程度で直ちに懲戒処分を適用するのは懲戒権の濫用に当たると考えられています。
使用者が、当該行為や被処分者に関する情状を適切に斟酌しないで、重すぎる量刑をした場合には、懲戒権の濫用として無効となります。
特に、懲戒解雇は再就職が困難になり、退職金が減額・没収され、雇用保険の給付が3ヶ月制限されるなど労働者にとって不利益の大きい処分なので、注意が必要です。
懲戒処分が無効とされるケースは、懲戒処分に該当する事実がなく、本人が潔白であるというのではなく、懲戒に値する事実は認められるが、「懲戒解雇又は諭旨解雇の事由とするにはなお不十分であるといわざるを得ない」(日本鋼管事件 最高裁 昭和49.3.15)とか、所持品検査拒否につき出勤停止処分は有効としながらも公金着服の件につき中傷の言動を行った「原告の心情を斟酌すべき余地が全くないとは言い難い」として、中傷の点につき情状重いとすることはできず「原告を懲戒解雇とした会社の処分は、就業規則の解釈適用を誤った違法があって無効」(西日本鉄道事件 福岡地裁 昭和50.11.19)等の判例にも見られるように、違反行為と懲戒処分との不均衡とされている例が、少なくありません。