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重大な内容でなければ、解雇事由にならない
経歴詐称とは、労働契約締結の過程で、労働者が履歴書などで経歴を偽るか真実を秘匿することをいいます。
経歴詐称は、企業秩序違反行為として懲戒の対象になります。
ただし、経歴詐称が懲戒解雇事由とされるには、労働力の評価、選択、位置づけを誤らせ、企業秩序侵害の可能性をもつ、重大な内容のものでなければならないともされます(日本鋼管事件 東京高裁 昭和56.11.25=父親の職業を詐称)。
つまり、懲戒解雇となる場合は
(1) 採用の条件となるような重要な経歴の詐称か
(2) 賃金その他の労働条件の体系を著しく乱し、健全な企業運営を阻害するなど経営秩序への具体的な損害 ないし侵害を及ぼしたかがポイントだといえます。
大森精工事件 東京地裁 昭和60.1.30
いわゆる成田事件に関し、逮捕、勾留され、凶器準備集合罪等で起訴されていることを採用面接時に秘匿したとして解雇された原告が地位保全、賃金支払の各仮処分を求めた事例。
使用者が告知を求められるのは、雇用契約の趣旨に照らし信義則上必要かつ合理的と認められる範囲に限られ、その事業内容や労働者の職務内容などを勘案し、会社の社会的信用、労働者の労働力の評価に影響を及ぼす事項に限定されるとされた。
その詐称が採用を左右するものなら重い
しかし、例外として、採用にあたって重要な要素となる経歴の詐称が行われた場合は、企業秩序云々とは関係なく、懲戒理由とされます。
通常、学歴・職歴・犯罪歴などの詐称がこれにあたるといえるでしょう。
硬化クローム事件(第一審) 東京地裁 昭和60.5.24
成田闘争において逮捕勾留され、17日間欠勤したこと、さらに大学中退を高校卒であると学歴を詐称したことを理由とする懲戒解雇の効力が争われた事例。
労働者が経歴詐称により本来従業員たり得ないのに従業員たる地位を取得した場合は、右詐称は重大な信義則違反であり、かつ契約成立の根幹をゆるがすものであるから、それにより企業秩序が侵害されたかどうかを問うまでもなく、それにより企業秩序が侵害されたかどうかを問うまでもなく、それ自体で企業秩序に重大な影響を与えたものとして、懲戒解雇事由にあたるものというべきである。
もっとも、経歴詐称の事実を知りながら、特に何らの処分をすることもなく経過していたような場合には、通常、当該詐称は業務に何ら影響も与えなかったと判断され、突如懲戒解雇することは相当性を欠くと見られることになりかねません。
職歴欄の空白から発覚
転職回数が多いと就職に不利になるので、これを隠す人もいます。
職歴欄に不自然な空白期間があると、面接官の質問により、発覚する場合が多々あります。
不自然な空白は必ず質問すべきです。
また、面接先で前の会社へ問い合わせすることも可能でしょう。
教えてくれるか否かは別ですが、採用を決定する前に過去に勤めた会社へ、退職した理由や勤務態度などを聞くのもよいでしょう。
大企業や業種によっては、身辺調査を行う場合もあるようです。
三菱樹脂事件 最高裁 昭和48.12.12
企業が労働者の採否決定にあたり労働者(応募者)の思想・信条を調査し、これに関する事項について申告を求めることも原則として禁止された違法行為とする理由はない。