目次
- 1 解雇回避の努力義務を尽くしたこと
- 2 日本スピンドル製造事件 神戸地裁尼崎支部 昭和55.2.29
- 3 東北住電装信州工場事件 長野地裁上田支部 平成15.11.18
- 4 PwCフィナンシャル・アドバイザリー・サービス事件 東京地裁 平成15.9.25
- 5 ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件 東京地裁 平成15.8.27
- 6 ケイエスプラント事件 鹿児島地裁 平成11.11.19
- 7 興和株式会社事件 大阪地裁 平成10.1.5
- 8 あさひ保育園事件 最高裁 昭和58.10.27
- 9 住友重機愛媛製造所事件 松山地裁西条支部 昭和54.11.7
- 10 細川製作所事件 大阪地裁堺支部 昭和54.4.25
- 11 宝運輸事件 広島地裁福山支部 昭和54.2.28
- 12 川崎化成工業事件 東京地裁 昭和50.3.25
- 13 杵島炭坑事件 佐賀地裁 昭和25.5.30 ほか
解雇回避の努力義務を尽くしたこと
会社は整理解雇を避けるためにとりうる他の手段を十分尽くすことが求められます。
回避手段としては、
1、残業削減・労働時間短縮
2、他部門への配転
3、関連会社への出向
4、新規採用の中止
5、希望退職者の募集
6、一時帰休の実施
7、資産売却
8、雇用調整助成金の利用
など、会社が解雇回避のために一定の努力をしたことがあげられるでしょう。
雇用調整手段をとれるのに、それらを採用せずに整理解雇の手段にでた場合は、解雇回避義務を尽くしていないといえます。
裁判例では、とくに希望退職の募集をしないで、いきなり整理解雇をした場合に、解雇回避努力を尽くしていないと判断されることが多いようです(あさひ保育園事件 最高裁 昭和58.10.27)。
日本スピンドル製造事件 神戸地裁尼崎支部 昭和55.2.29
このような解雇が有効とされるためには、第一に、人員整理の必要性、すなわち、企業が客観的に高度の経営危機下にあり、解雇による人員整理が必要やむを得ないものであること。
しかし、その後の判例では、「倒産必至の場合に限局することは、経営権ないし経営の自由を制約することやや大幅に過ぎる」とされており、客観的に高度な経営上の必要性があれば足りるというものが増加しており(住友重機工業玉島製造所事件 岡山地裁 昭和54.7.31ほか)、状況如何によっては、危険予防型の整理解雇も認められています。
東北住電装信州工場事件 長野地裁上田支部 平成15.11.18
吸収合併された信州工場の閉鎖に伴う岩手県工場への転勤拒否を理由とする信州工場従業員らの解雇につき、工場閉鎖はやむを得ないが、解雇回避義務と十分な労使協議の点で要件を満たしていないから、解雇権の濫用として無効とされた。
PwCフィナンシャル・アドバイザリー・サービス事件 東京地裁 平成15.9.25
外資系コンサルタント会社マネージャーの本件解雇については、人員整理の必要性は認められるものの、解雇回避努力義務及び被解雇者選定の合理性のいずれの点においても、十分な努力および合理性があるとは認められず、解雇権を濫用したものというべきである。
また、外資系コンサルタント会社およびコンサルティング業界といえども、労働者が賃金によって生計を立てている以上は、キャリアアップに適した転職の機会が訪れるまでの間、会社に在籍することに合理的期待を抱いているというべきであり、その解雇にあたって客観的で合理的な理由が必要であることは、他の業界の場合と異ならないとされ、本件の場合も、被告の雇用形態や原告の年収額を考慮しても、本件解雇につき客観的で合理的な理由があるとはいえない。
ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件 東京地裁 平成15.8.27
「職制の改廃、経営の簡素化、事業の縮小その他会社業務の都合により剰員を生じたとき」、「その他会社業務の都合上、やむを得ない事由があるとき」を理由とする解雇につき、人員を削減する必要があったか否かが疑問であり、希望退職を募集するなど解雇回避努力に値するような措置は一切取られておらず、解雇回避努力を尽くしたとはいえないから、解雇は理由がないとされた。
ケイエスプラント事件 鹿児島地裁 平成11.11.19
人員整理の緊急性に疑問があり、経営合理化策も十分でなく、整理解雇実施前に退職勧奨や希望退職者の募集を行わなかったことから、解雇回避措置を十分に講じていなかったとされ、解雇が無効とされた。
興和株式会社事件 大阪地裁 平成10.1.5
会社は余剰人員となる予定の者の配置転換を検討してはいるものの、整理解雇前に希望退職者を募集するなどの措置を講じていなかった点をあげ、会社は解雇回避措置を怠ったとして、解雇が無効となった。
あさひ保育園事件 最高裁 昭和58.10.27
解雇の必要性・方法・条件などを説明して協力を求める努力も解雇回避の努力もせず、希望退職者募集の措置も採ることなく、解雇日の6日前に突如として通告した解雇は、労使間の信義則に反し、解雇権の濫用にあたる。
住友重機愛媛製造所事件 松山地裁西条支部 昭和54.11.7
企業において経営改善の努力を尽くし、また解雇以外の出向、配転、任意退職募集等の余剰労働力の吸収の手段を尽くしたうえで行うものであること。
細川製作所事件 大阪地裁堺支部 昭和54.4.25
希望退職を募集したものの、応募してきた社員は慰留しながら、「人数が足りない」といって他の社員を指名解雇した事件において、解雇回避努力が尽くされてはいないとして、解雇無効とされた。
宝運輸事件 広島地裁福山支部 昭和54.2.28
企業が従業員を解雇しようとする場合には、解雇するについて真にやむを得ない事由がなければならず、解雇を回避するために、労務管理を含め経営上あらゆる面で真摯な努力をすることが前提とされなければならない。
川崎化成工業事件 東京地裁 昭和50.3.25
企業は、経営合理化のための人員整理を進めるにあたっては、合理化の目的に反しない限り、解雇を避けるためできるだけの努力を払うべきであって、そのためには、下請の解約、希望退職の募集、余裕ある職場から労働力の不足している職場への配置転換等解雇以外に人員整理の目的を達しうる方法があって、しかもそれが容易である場合には、そのような手段を講ずべき信義則上の義務がある。
杵島炭坑事件 佐賀地裁 昭和25.5.30 ほか
使用者が人員整理をするについては失業を避けるためにあらゆる努力を払うべきであって之が為には自発的退職者の募集、余裕のある地域への労働者の移動の促進、配置転換、作業方式の科学化その他経営の合理化等に手段を尽くした上で、之をなすべく・・・之等の手段を尽くさないときは使用者の誠実性が疑われ人員整理が真実企業の合理化に基くものかどうか疑問を抱かれる結果になる。