配置転換

専門職種の専門外への配転

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職務が限定されていれば、異動はその範囲に限られる

職種や勤務地が限定された労働契約の場合は、その限定された職種・勤務地の範囲が配転命令権の根拠ということになります。

一般労働者の同一部門内の配転は、「労働者の同意がなくとも許される(日本ユニカー事件 横浜地裁川崎支部 昭和48.8.14)」とされています。

トラブルが生じやすいのは、採用時に「職務限定」で採用された社員なのか、そうでないのかが明確でないまま、別の職務に配置転換を命じた場合です。

技術者は自らの技術にそれなりのプライドを持っていますから、配転命令は自分のキャリアの全否定として受け止められがちであり、しばしばトラブルになります。

しかし、生産技術や社会状況の変化から、その技術者の持っている技術・知識が陳腐化しすでに価値を失っている場合もあるでしょうし、会社の経営上の必要から担当部門を縮小せざるを得ない場合もあります。

一定の成果を上げることを前提として採用された技術者だとしたら、その約束を果たせないと、配転はおろか解雇の場合もありえます。

特殊な技術、技能、資格を有する者(医師、看護婦、ボイラーマン等)については職種が限定されているのが通常です。

職種を限定した労働契約を結ぶときは、

1、一定期間後に成果を評価する

2、成果が出なければ、配転・解雇もある
ことを伝えた上で採用することが望ましいでしょう。

裁判では、アナウンサー、看護婦、医師、大学教員、保母、自動車運転手、技師、電話交換手などで争われています。

職務限定の裁判例

直源会相模原南病院事件 東京高裁 平成10.12.10

病院の事務職員に対する看護助手への配転命令につき、「業務の系統を異にする職種への異動、特に事務計の職種から労務職系への職種への異動については、業務上の特段の必要性及び当該従業員を異動させるべき特段の合理性があり、かつ、これらの点について十分な説明がなされた場合か、あるいは本人が特に同意した場合を除き、一方的に異動を命ずることはできない」とし、配転命令を無効とした。

ヤマトセキュリティ事件 大阪地裁 平成9.6.10

警備会社社長のスポーツ団体事務局長就任を契機に語学堪能との条件のものに採用された47歳の女性に対する、社長の団体事務局長退任後になされた警備職への配転命令に関して、事務職に職種が限定されているとした。

日本テレビ放送網事件 東京地裁 昭和51.7.23

アナウンサーとして採用され、17年間もアナウンサーに従事してきた者については、職種限定だとされた。

労働契約締結の際にテレビ放送のアナウンス業務以外の業務にも従事してよい旨の明示又は黙示の承諾を与えているなどの特段の事情の認められない限り、申請人は被申請人との間に、テレビ放送のアナウンス業務のみに従事するという職種を限定した労働契約を締結したものであって、その後申請人が個別に承諾しない限り、被申請人におけるその余の業務に従事する義務を負わないものと解すべきである。

東亜石油事件 東京高裁 昭和51.7.19

理科大を卒業し、川崎製油所製造部試験室のLPガス組成分析部門で働いてきた労働者に対し、この部門から東京本社のLPガスセールスエンジニアへ配転を命じた。この配転命令を拒否したことが、就業規則の「業務の都合により転勤、職場・職種の変更を命じうる」との規定に基づく命令違反に当たり、これを理由とする懲戒解雇は、解雇権の濫用に当たらないとした。

富士産業事件 甲府地裁 昭和61.11.7

入社以来17~34年間一貫して製造部門に勤務していた労働者の事務部門への配転に関し、労働契約上、製造部門の業務の範囲内において勤務するとの合意が成立していたとみるべきとされた。

和歌山パイル織物事件 和歌山地裁 昭和34.3.14

労働者の同一職種における場所的組織的移動ないし変更、もしくは従来の職種に密接な関係にある職種への配置転換は、特段の不利益待遇と認められない限り、その労働者の生活に多少の不便不利益が伴っても、それは業務運営上、また人事管理上の措置として、使用者の専権裁量に属するものであるけれども、労働者の日常生活に影響を及ぼす賃金の相当な減収、もしくは特に技術者ないし熟練工においては、その過去の経歴に照らして、将来にわたる技術的な能力、経歴の維持ないし発展を著しく阻害する恐れのあるような職種ないし職場の転換は、当該労働者の同意が必要である。

愛生会厚生荘病院事件 東京地裁八王子支部 昭和57.7.7

病院の事務員から洗濯係(労務員)へ配転された者および入院事務担当から購買部売店へ配転された者がその効力を争った事例。

「事務員」と「労務員」とでは担当業務の内容において著しい相違があるばかりでなく、給与体系上も格差があることに併せ、これまで同一職種内部における業務内容の変更についても当該従業員の同意を得てこれを実施してきたというその運用の実態に鑑みると、院長が当該従業員の同意なしに、一方的にこれを命じることはしないとの暗黙の合意が従業員との間に成立していたか、あるいはそのような内容の慣行が成立していたものと解するのが相当である。

右のとおりとすれば、被告病院長は、原告らに対し、労務指揮権に基づいて「事務員」の職種の範囲内においては従前の業務とは異なる業務の担当に配置換えを命ずることができ、原告らもこれに応ずべき義務があると解されるが、原告らの同意もなしに右職種の範囲を超え、配置換えを命ずることは、一方的に労働契約を変更するものであって、なし得ないものといわなければならない。

日野自動車事件 東京高裁 昭和43.4.23

採用時には、職種限定の特約や専門技能がなくても、その後の特別な訓練や養成によって一定の技能・熟練を修得し、長い間その業務に従事してきた人の労働契約が、その職種に限定されていると判断される場合がある。

労働契約で職種が限定されている場合は、使用者が一方的に配置転換を命令することはできず、労働者の合意が必要となる。

名村造船所事件 大阪地裁 昭和48.12.18

技術職からセールスエンジニアへの配転。

著しい職務内容の変更は無効。

職種限定が認められなかった事例

東京アメリカンクラブ事件 東京地裁 平成11.11.26

約21年間にわたり電話交換の業務に従事していた労働者を洗い場へ配転した事案。

本件雇用契約は職種限定契約であるということはできず、むしろ、異動ないし配置転換も予定された雇用契約であるというほかなく、原告の電話交換手から洗い場への職種変更も本件雇用契約の範囲内の配置転換ないし異動と言うべきである。

九州朝日放送事件 最高裁 平成10.9.10

アナウンサーについて職種限定を認めなかった例。

アナウンサーを特殊技能を有する者ということはできるが、採用時に特別な資格等は要求されておらず、その特殊技能は、実務の中で培われていくものであり、それはアナウンサー以外の特殊技能を有する従業員でも変わらないこと、就業規則において、「会社は、業務上の必要性により、従業員に対し、辞令をもって転勤または転職を命ずることがある。」と規定されており、アナウンサーを除外することなく、一般的に配転命令権があることが定められていること、アナウンサーについても一定年齢に達すると他の職種への配転が頻繁に行われていることを認めた上で、本件労働契約において、アナウンサーとしての業務以外の職種には一切就かせないという趣旨の職種限定の合意が成立したものと認めることはできず、業務運営上必要がある場合には、個別的同意なしに職種の変更を命令する権限が、会社に留保されているものと解するのが相当である。

エア・インディア事件 東京地裁 平成4.2.27

機上勤務をしていた女子社員に対する地上職勤務への配転命令につき、機上勤務(エアーホステス)という黙示の職種限定があったが、本件命令時にはすでに雇用契約の内容になっておらず、配転命令権の濫用にもあたらないとされた事例。

本件雇用契約の締結時から23年を経過した後にされた本件配転命令当時には、雇用契約締結当初に成立した職種限定の黙示的な合意は、既にその効力を失い、本件雇用契約の内容にはなっていなかったと解するのが相当である。

東洋鋼鈑事件 東京高裁 昭和49.10.28

購買係から独身寮の業務への配転命令につき、権利濫用にあたり無効であり、右配転拒否を理由とする懲戒解雇も無効とした事例。

特殊の技能技術、又は一定の資格を有することが雇用の条件となっている場合、あるいはその職場において規定もしくは慣例上それらの者を特別の職種としている場合は別として、単に特殊技能・技術を有するというだけで雇用契約上、職種が特定しているということはできない。

例外的な人事異動

上記のように職種限定特約や勤務地限定特約が認められている場合であっても、例外的に人事異動が認められる場合もあると解されます。

例えば、会社の業績が不振のため人員整理をする必要が生じた場合に、解雇回避策の一環として異動や出向を検討する際、整理の必要性や人選基準の合理性、手続の適正といった要件が充足されている場合は、職種限定特約や勤務地限定特約が認められる社員であっても、人選基準に合致する場合は、異動や出向の対象とし得ると考えられています。

神奈川中央交通事件 横浜地裁 平成11.9.21

運転技術上問題のある運転手に対して、約1ヶ月間の添乗指導を受けさせたことは適法である。

さらに、事業所廃止などというような極限的なケースにおいては、たとえ職種限定特約や勤務地限定特約があっても、配置転換や異動に応じない場合は解雇もやむを得ないと解されることになると思われます。

パソコンの苦手な職員をあえてIT業務に配置した場合

一般的な採用の場合、配転しない旨の特約等はありません。

したがって、その作業への配置換えが、その労働者にとって、通常甘受すべき程度を超えているかどうかが、ポイントとなります。

求められるIT操作能力のレベルや当該従業員の年齢によって結論は異なるものの、現在の企業の実情からいうと、ある程度パソコンを使うことができるというのは、一般の労働者に要求されている能力と考えられます。

したがって、単にパソコンが苦手であるというだけでは、「通常甘受すべき程度を超える不利益」とまではいえないでしょう。

ただし、企業としては、当該従業員がその業務に適用することができるだけの十分な研修の機会を与えてから、配転を実施すべきことは、いうまでもありません。

何らの教育・研修もないままパソコン作業中心の部門に送り込むことは、一種の「嫌がらせ」と受け取られかねないことに留意すべきです。

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