目次
- 1 退職
- 2 期間の定めのない労働契約の場合
- 3 年齢による差別をしてはいけない
- 4 更新回数限度の明示
- 5 期間の定めのある労働契約の場合
- 6 事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善のための措置に関する指針(厚生労働省)
- 7 解雇
- 8 安川電機八幡工場事件 福岡高裁 平成.14.9.18
- 9 弥生工芸事件 大阪地裁 平成5.5.16
- 10 春風堂事件 東京地裁 昭和42.12.19
- 11 解雇には合理的な理由が必要
- 12 事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善のための措置に関する指針(厚生労働省)
- 13 日立メディコ事件 最高裁 昭和61.12.4
- 14 雇止め=更新拒否
- 15 雇止めの場合のチェックポイント
- 16 事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善のための措置に関する指針(厚生労働省)
- 17 短期労働契約の反復更新と雇止め
- 18 東芝柳町工場事件 最高裁 昭和49.7.22
- 19 本文
退職
期間の定めのない労働契約の場合
使用者の同意がなくても、労働者が退職の意思表示をして2週間経過すれば雇用関係は終了します。
ただし、就業規則その他で退職に関する手続きが決められている場合は、その手順に沿った対応が求められます。
年齢による差別をしてはいけない
「契約期間中に満50歳に達した場合は次期の契約更新を行わない」という取り決めは、年齢による差別と解されます。法律は、60歳未満の定年制を認めていません。
また、平成13年10月より施行された雇用対策法でも、努力義務ではありますが、年齢を理由に募集・採用対象からの排除を禁じています。
更新回数限度の明示
更新回数制限付きの有期雇用であれば、最終更新されたなら、年齢の如何を問わず、これをもって雇用期間が終了されます。
国のパートタイム労働指針では、1年を超える短時間就労者の場合、雇止めするとき少なくとも30日前に更新しないと予告をするように求めています。
また、雇用保険の特定受給者の判断基準に、更新により3年以上雇用された後離職した労働者を、特定受給者(本人の都合によらない離職)とする旨の基準があります。
このことから、行政が有期雇用者の雇止めを「自己都合」か「会社都合か」判断する基準としては、1年を超えると「期間の定めがない雇用」としてのグレーゾーンに入り、3年を超えると「さらに期間の定めのない雇用」と取り扱われる可能性が高まる、という一定の基準があるように、推測されます。
期間の定めのある労働契約の場合
原則として、使用者の同意がなければ、契約期間終了までは退職できませんが、労働条件が雇入れ時に明示されたものと違う場合(労働基準法第15条第2項)や止むを得ない事情がある場合(民法第628条)は例外です。
また、労働者側の理由による退職で、使用者が具体的に損害を受けた場合損害賠償請求される可能性がありますし、同様に使用者側からの途中解雇も残期間の受け取れたであろう賃金について損害賠償請求の対象となります。
使用者に請求すれば、各種事項(使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職)についての証明書を発行してもらえます(労働基準法第22条)。
使用者に請求すれば、7日以内に賃金を支払ってもらえますし、積立金・貯蓄金などの労働者の権利に属する金品を返してもらえます(労働基準法第23条)。
就業規則などに定めがあれば、退職金を受け取ることができます。
離職証明書(雇用保険の失業給付を受けるのに必要)を発行してもらえます。
事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善のための措置に関する指針(厚生労働省)
第3 事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置
(5)期間の定めのある労働契約
事業主は、短時間労働者のうち期間の定めのある労働契約(以下この(5)において「有期労働契約」という。)を締結するものについては、労働基準法に基づき定められた有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号)の定めるところにより、次に掲げる措置を講ずるものとする。
イ 契約締結時の明示事項等
(イ)事業主は、有期労働契約の締結に際し、短時間労働者に対して、当該契約の期間満了後における当該契約に係る更新の有無を明示するものとする。
(ロ)(イ)の場合において、事業主が当該契約を更新する場合がある旨明示したときは、事業主は、短時間労働者に対して、当該契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示するものとする。
(ハ)事業主は、有期労働契約の締結後に、(イ)又は(ロ)に規定する事項に関して変更する場合には、当該契約を締結した短時間労働者に対して、速やかにその内容を明示するものとする。
ニ 契約期間についての配慮
事業主は、有期労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している短時間労働者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該短時間労働者の希望に応じて、契約期間をできるだけ長くするように努めるものとする。
解雇
パートだからといって、自由に解雇できるわけではありません。
まず、有期契約期間内は、原則として解雇することはできません。
期間の定めのある労働契約の場合、期間そのものが契約内容となっているわけですから、真にやむを得ない事由がない限り、原則として契約期間中に解雇することはできないのです。
安川電機八幡工場事件 福岡高裁 平成.14.9.18
3ヶ月間の有期雇用契約を14年から17年にわたって更新してきたパートが、契約期間途中で整理解雇。
残余期間を待つことなく終了しなければならないほどの予想外の事態が発生したと認めることはできないため、整理解雇の効力を否定した。
弥生工芸事件 大阪地裁 平成5.5.16
給与が時給制か月給制かの点で差異があるにすぎないパートタイム従業員2名の本件整理解雇は、通告時においても、会社の経営状況一般について説明したにとどまり、なぜ原告らが解雇の対象になったかについては、何ら説明しておらず、解雇権の濫用として無効である。
春風堂事件 東京地裁 昭和42.12.19
使用者が企業の必要から労働者の整理を行おうとする場合には、先ずパートタイムの労働者を先にして、その後フルタイムの労働者に及ぼすべきであって、パートタイムの労働者を解雇する場合に理由は、フルタイムの労働者を解雇する場合に比較して相当軽減されるものであることを承認せざるを得ないけれども、パートタイマーといえども、何らの理由がないのにこれを解雇することは、いわゆる解雇権の濫用との推定を受ける場合の生じてくることも否定できない。
解雇には合理的な理由が必要
パートタイマーでも、解雇するには合理的な理由が必要ですし、手続き的には労働基準法で、少なくとも30日前までに解雇予告をするか、これをしない場合は30日分以上の平均賃金を支払うことになっています。
事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善のための措置に関する指針(厚生労働省)
第3 事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置
(6)解雇の予告
イ 事業主は、短時間労働者を解雇しようとする場合においては、労働基準法の定めるところにより、少なくとも30日前にその予告をするものとする。30日前に予告をしない事業主は、30日分以上の平均賃金を支払うものとする。
ロ イの予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮するものとする。
(7)退職時等の証明
ロ 事業主は、短時間労働者が、(6)の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、労働基準法の定めるところにより、遅滞なくこれを交付するものとする。
試用期間中であっても、14日を超えて雇用した場合には、この手続きが必要です。
一般従業員同様、以下のような理由による解雇は禁止されています。
(1) 労働者の国籍、信条などを理由とする解雇 労働基準法第3条
(2) 労働者が労働災害で療養中の期間と出勤後30日間にする解雇 労働基準法第19条
(3) 女性労働者が産前産後休業中の期間と、出勤後30日間にする解雇 労働基準法第19条
(4) 不当労働行為にあたる解雇 労働組合法第7条
(5) 女性労働者であることを理由とする解雇 男女雇用機会均等法第9条
(6) 女性労働者の結婚・妊娠・産前産後休業の取得を理由とする解雇 男女雇用機会均等法第9条
(7) 育児・介護休業を申し出たこと、取得したことを理由とする解雇 育児・介護休業法第20条の2
ただし、パートやアルバイトは余剰人員対策としての雇用だと見なされていることも事実です。
日立メディコ事件 最高裁 昭和61.12.4
比較的簡易な採用手続で短期的有期雇用契約を前提とするパートタイマーの解雇について、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員を解雇する場合とおのずから合理的な差異があるとした。
雇止め=更新拒否
日本には、短期労働契約を締結することを制限する法律はありません。
この短期労働契約では、契約期間が満了すれば、契約は当然終了することになります。
契約期間満了により、契約が更新されないことを「雇止め」と呼びます。
しかし、企業が臨時的な必要性に基づいて雇用期間の定めのある労働者を採用することは実際まれであり、期間終了後も労働関係が継続することが多くなっています。
そこで国は指針を示し、1年を超えて継続雇用している場合には、少なくとも契約期間満了の30日前に、更新しない旨の予告をするよう求めています。
また、使用者は、有期雇用契約を結んだ労働者に対して、契約締結時にその契約の更新の有無を明示しなければなりません。
さらに、契約を更新する場合としない場合の判断基準を明示する必要があります。
1年以内の短期労働契約がそのまま継続した場合には、当事者が「前雇用と同一条件にて」契約を黙示に更新したものとして取り扱われます(民法629条)。
この場合、雇用期間も「前雇用と同一条件」で更新されるものと考えられます。
更新は新たな契約の締結ですので、更新するかしないかは当事者の意思に委ねられます。
(1) 短期労働契約が反復更新され、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状況となった場合には、更新の拒否には客観的で合理的な理由が必要とされる。
(2) 短期労働契約が反復更新された後、雇い止めによって契約が終了した場合、雇用保険の退職事由が当然に「契約期間の満了」となるわけではない。
契約に期間の定めがあるからといって、採用時の説明やその後の契約更新の繰り返しにより雇用が継続していくことについて合理的期待が生じている場合には、契約更新を簡単に拒否することはできません。
また、労働者が所定の期間を終了しても労働を継続し使用者がこれに異議を述べないときは、契約は同一の条件をもって黙示に更新されたものと推定されます(民法629条1項)。
そこで、使用者が雇用を終了させたければ、期間満了時に雇止めの意思表示を行う必要があります。
期間の定めのある雇用契約が反復更新された後の雇止めについては、その契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状況となった場合には、解雇の場合と同様に「客観的に合理的な」理由が必要であるとされています。
そこで、このような雇止めの場合、次のような点を総合的に判断して期間の定めのない契約と実質的に異ならない状況となったかどうかを見極めることになります。
雇止めの場合のチェックポイント
(1) 期間雇用が臨時的なものであったのか、それとも常用的なものであったのか。
(2) 更新の回数は多いかどうか。
(3) 雇用の通算期間は長いかどうか。
(4) 契約期間満了のつど、直ちに契約締結の手続きをとるなど、契約期間管理の状況はどうだったか。
(5) 会社が長期継続雇用を期待させるような言動をするなど、雇用継続の期待をもたせたか。
(6) 期間満了で雇止めをされた事例があったか。
契約更新の回数が多いというだけでは、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状況になったとまではいえないでしょう。
しかし、その他の事情(上記(1)~(6))とあわせ総合的に判断して、労働者の抱いた雇用継続の期待が強く、そうした期待を抱くことが当然であると考えられるのであれば、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状況になったと言えることになります。
この場合、事業主が労働者の意に反して契約更新を拒否することは解雇にあたると考えられます。
更新を拒否するには客観的で合理的な理由が必要という解雇権濫用法理が類推適用され雇い止めによって契約を解除することはできません。
パートタイム労働指針では、事業主に期間の定めのある労働契約の更新により1年を超えて引き続き使用するパートタイマーについて、契約を更新しないときは、少なくとも30日前に予告しなければなりません。
事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善のための措置に関する指針(厚生労働省)
第3 事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置
(5)期間の定めのある労働契約
ロ 雇止めの予告
事業主は、有期労働契約(雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している短時間労働者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。ハの(ロ)において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をするものとする。
ハ 雇止め理由の明示
(イ)ロの場合において、事業主は、短時間労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付するものとする。
(ロ)有期労働契約が更新されなかった場合において、事業主は、短時間労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付するものとする。
短期労働契約の反復更新と雇止め
東芝柳町工場事件 最高裁 昭和49.7.22
本件各労働契約においては、上告会社としても景気変動等の原因による労働力過剰状態が生じないかぎり契約が存続することを予定していたものであって・・・いずれかから格別の意思表示がなければ、当然更新されるべき労働契約を締結する意思があったものと会するのが相当であり、したがって本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各傭止めの意思表右のような契約を終了させる趣旨のものにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる。
〔そうである以上〕本件各労働契約の傭止めの効力の判断にあたっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推適用すべきである。
本文
本件各労働契約においては、上告会社としても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約が継続することを予定していたものであって、実質において、当事者双方とも、期間は一応2ヶ月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと解するのが相当であり、したがって、本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各傭止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる、とするのであり、また、そうである以上、本件各傭止めの効力の判断にあたっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきであるとするものであることが明らかであって、上記の事実関係のもとにおけるその認定判断は、正当として首肯することができ、その過程に所論の違法はない。